【献本御礼】
自分を捨てて仕事ができている人は、本当に少数だと思う。最初は謙虚に捨てられても、いろいろと知識を身につけて行く中で、捨てられない自分が出てきてしまう。
捨てられなくなると、新しい知識や知恵が入ってこなくなる。帯には三年間マネしろとあるけれど、僕自身の経験から言えば、これは一生の話。幸い、お稽古に取り組んでいる能楽の世界は、このマネする対象である師匠を得ることができる。師匠の先にはまたその先の師匠がいて、マネは写し鏡のように連なって、数百年の時が重なる。
この重なりだけが自分を浅はかさから救ってくれる。