技術はあるけれどどのようにビジネス展開していいかわからない、という相談をよく受けます。こういう相談の場合、相談元は研究所であることが多いですね。本来は企業の中の企画部門と連携すればよいのですが、企画部門は現状の商品ラインの企画で忙しく、なかなか新しい事業まで手が回らないということが多いようです。
ブルームコンセプトで提供するのが、
- 技術を元にした事業アイデアの創出
- 事業アイデアのビジネスモデル構築
のふたつになります。今日はこのうち、1のアイデア創出について、どのように進めるかご紹介します。
1. 事業アイデアの創出
1-1 Yes, Andで制約を取り払う
まず事業アイデアの創出ですが、この段階ではよく言われるようにできるだけたくさんアイデアを出すことが求められます。質より量ということです。ブルームコンセプトでも同様に、アイデアをできるだけたくさん出せるよう、ビジネスインプロなどの方法を使ってアイデアを出していきます。
1時間ほどの時間を使って、アイスブレイクを兼ねてインプロを行います。標準的なプログラムもできあがりつつあり、こんな感じで行います。
- エイトカウント
- ミーティング&グリーティング(関係性づくり)※
- わたし・あなた(即興性に必要なコミュニケーション)
- 連想ゲーム(イメージで思考するトレーニング)
- サンキューゲーム(身体言語のトレーニングとフォロワーによる意味付け)
- Yes, Andゲーム(インプロの重要コンセプト)
- 社長ゲーム(想定外の受け入れ)※
- シェアードストーリー(目的の共有)※
時間によっては※を省略することがあります。
このプロセスを行った上で、TEDの映像を紹介します。
この動画でも触れられているように、モヤモヤ(Cloud)は重要なキーワードです。ワークショップを進めていると、かならずモヤモヤに入ります。しかし怖がって、ありきたりな落とし所を探ったら台無しです。モヤモヤに入っても怖くない、むしろ知らない領域、イノベーションの領域に近づいているのだと感じながら進むべきなのです。
1-2 多様な参加者で実施するワールドカフェ
そのうえでワールドカフェを実施します。カフェ的なリラックスした空間をつくって、そこで活発なアイデア出しをしてもらいます。テーマは、「2030年の○○の応用範囲」「2050年の自社の事業展開」などさまざまですが、基本的に未来の時間設定にします。これは、今ある制約によって発想が限定されないようにするためです。
さて、インプロのプロセスで体感したYes, Andのスタンスがここに生きてきます。人のアイデアを否定するのではなく、そこに乗っかってアイデアを出す。4人1組の島を作り、でてきたアイデアを模造紙にどんどんと書き出していきます。
頃合いを見計らって、テーブルマスターをひとり決めて、それ以外のメンバーをシャッフルします。他のテーブルでもさらにアイデア出しをしてもらい、その後、その結果を自分のテーブルへと持ち帰っていきます。旅立ちと他家受粉のプロセスが、ワールドカフェの特徴です。
このワールドカフェによって、参加者がどのようなことを考えているのかが一気に可視化、共有化できます。1時間ほどですが、この段階だけでもすばらしい成果が上がります。それが、新事業を構築しようというメンバーの一体感です。

- 作者: アニータブラウン/ デイビッドアイザックス/ ワールド・カフェ・コミュニティ,香取一昭/ 川口大輔
- 出版社/メーカー: ヒューマンバリュー
- 発売日: 2007/09/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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集合知を可視化するワールドカフェで重要なことは、参加者の多様性です。社内のステークホルダー、たとえば営業部門や製造部門など他部門の人はもちろんのこと、社外からはデザイナーも参加してもらい、ビジュアライゼーションのサポートを支援してもらうこともあります。ブルームコンセプトでよく協業しているデザイン会社は二社です。
もしこうしたアイデア創出のプロセスでデザイナーの協業が必要であれば、お問い合わせしてみると良いかと思います。
1-3 コンセプトシートの作成
できあがったワールドカフェのアウトプットをもとに、コンセプトシートへと落としこんでいきます。コンセプトシートはA4の紙に書く、簡単なものです。コンセプトシートの要素は、タイトル、イラスト、説明の3つです。
ワールドカフェでのテーブルで各10案ずつコンセプトシートを作ります。5テーブルあれば、50案のコンセプトが仕上がります。(この段階でのアウトプットの多様性は、(経験則的に言えば)参加者の多様性に依存しています。インプロを含めたここまでの2時間は、多少無理をしてでも参加者を増やしたいところです。)
1-4 KJ法による全体像の把握とグルーピング
この段階までは量を追求します。質より量。しかし、ただ量を追求するだけでは十分ではありません。出てきたアイデアがどのような位置づけにあり、全体を見渡した時に出てきていない領域がないか、チェックする必要があります。
アイデア創出の段階ででよくある悩みが、
- 量が出ない
ということだけでなく
- 十分な領域を検討できていないのではないか
というところにあるからです。
この懸念を払しょくするためには、アイデア創出のプロセスの各段階において、アイデア全体を見渡す必要があります。
何十個もでてきたコンセプトを、床の上においてグルーピングしていきます。似たようなアイデアをまとめていくと、おおよそ5〜7個くらいの領域が浮かび上がってきます。
領域ごとに名前をつけてここまでのプロセスは終了です。
カフェがアイデアを生み出す理由について、スティーブン・ジョンソンのTEDのトークを紹介しながら振り返ります。
1-5 未来の事業領域からのバックキャスト
ここまでで出てきたのは、あくまで未来の事業領域です。この未来からバックキャストして現在の事業を考えます。
ここで紹介するのが、Appleの30年ロードマップです。この話の元ネタは中島聡さんのブログエントリーです。Appleは、デジタルコンテンツが流通する未来を見据えて、バックキャストしてさまざまな製品群を戦略的にリリースしてきたのだといいます。
彼に言わせると、今のAppleのビジネス戦略は、倒産寸前だった97年当時に作った「30年ロードマップ」に書かれた通りのシナリオを描いているという。
もちろん、具体的な内容は企業秘密でもあるので直接聞き出すことはできなかったが、ここ12年の間にアップルが出して来たもの(iPod, iTunes, iPhone, Apple TV, Safari, OS-X, iLife, Final Cut) と、彼の話を繋げれば、そのロードマップの姿は自ずと見えて来る。
ひとくちで言えば、「映像・画像・音楽・書籍・ゲームなどのあらゆるコンテンツがデジタル化され、同時に通信コストが急激に下がる中、その手のコンテンツを制作・流通・消費するシーンで使われるデバイスやツールは、従来のアナログなものとは全く異なるソフトウェア技術を駆使したデジタルなものになる。アップルはそこに必要なIP・ソフトウェア・デバイス・サービス・ソリューションを提供するデジタル時代の覇者となる」である。
ここに更に加えるとしたら、おそらくデザインで評価されたiMacは、実はモデムを標準内蔵したパソコンの登場として、またiBookについても、無線LANスロットを標準で内蔵していたノート型パソコンとして評価すべきだということ。当時のエンジニアにとってモデルを内蔵することなど「技術的には」大したことがなかった。けれども、それはこれからの世界の変化を見据えれば、重要な第一歩だったと捉えることができます。
さて、アイデア創出でのバックキャストは、あくまで直近のタイミングでリリースできるもの、1997年のAppleでいえば、iPodもまだ早く、1999年のiMacに相当するものを考えます。
具体的には、さきほどのコンセプトシートに、現在考えられる想定顧客と顧客メリット、想定価格を書き込むだけです。「だけ」と書きましたが、この条件はかなりキツイ収束の拘束条件となり、アイデアが急速に現実的なものへと変化していきます。
各チーム1領域ずつ選び、その領域での事業展開案を3案ずつ考えます。この段階に至って、成果物は次の3つとなります。
- 未来の事業案 50案
- 未来の事業領域 5〜7領域
- 各事業領域でのバックキャストしたコンセプト 3案x5チーム=15案
※20人5チームで実施した場合
このプロセスを一日で実施するのですが、一日で行ったとは思えないほどの良質なアウトプットが生まれます。アイデアを拡散させるときのいくつかのポイントをおさえ、さらにそのアイデアを収束していくときの無理のないプロセスデザインが重要になってきます。